• 主な研究内容
  • 鉱物・エネルギー・水資源のための地殻の地球科学と工学

    世界的な経済、工業、農業の発展に加え、特にアジア・アフリカでの人口増加が予想されるなか、非再生あるいは再生資源である鉱物、化石・非化石燃料、水の需要がいずれも急増しており、その確保が今後一層必要となる見込みです。

    その一方で、新たな金属鉱床や石油・天然ガス貯留層の探査対象はますます深部化し、陸域のみでなく海域にも広がり、新規鉱床の発見は難しくなっています。

    このように資源がさらに必要となるのに、その発見は難しいという相反する状況において、資源の胚胎の場である地殻の地球科学的・工学的な理解がますます重要になります。

    当研究室のミッションは地球資源分野において、この理解の深化・高精度化にあり、これを踏まえて資源の安定供給、資源と共存し地球環境と調和した持続的社会の構築、および地層貯留機能の高度利用への貢献を目的としています。そのために、地球計測法と数理地質学による鉱物・エネルギー・水資源の分布形態モデリング、地殻ガス・流体の化学的性質と流動現象の解明、地質・熱・物性に関する地殻構造の高精度推定に関する研究を行っています。

    研究では、固体地球の最上部である地殻の中で、資源関連の何がどこにどれほどあって、どのような物性を持っていて、水・熱の流れや地殻変動にどのような影響を及ぼしているのか?を明らかにするために理論的解析、データ解析、室内実験、フィールド測定・実験を手段とします。これらをバランス良く行い、特に国内外、陸海域での調査・実験を重視して、自然現象に対する洞察力、総合的解釈力を養うことを研究室のモットーとしています。

    これは、上記のミッションのもと、資源の探査・評価と関連の深い地質現象を正確に理解するためには、工学・理学の両方に跨る視点からの問題設定と解析結果の考察が必要となるためです。国内での複数の調査に加えて、昨年度はインドネシアとモザンビークで海外調査を実施しました。「学際的」、「イノベイティブ」、「浅部から深部まで」、「マルチスケール」の4つを研究方針に掲げています。

    以下に最新の研究例を紹介します。

  • リモートセンシングによる地殻構造と物性の推定技術の開発
  • 鉱物・エネルギー・水資源の分布を明らかにするには、地質構造、岩石・鉱物の種類やその物性と化学成分、および地殻変動パターンなど、 広範囲にわたる静的・動的な地質情報が必要となります。

    そのためにリモートセンシング技術を応用します。これによる衛星画像や地形データを用いて、 深部から上昇する熱水の通路となり得る亀裂の分布を抽出できる手法を開発し、その分布が地熱兆候点に対応することを明らかにしました。

    また、金属鉱床に起因した植物ストレスを衛星画像の反射スペクトルから特定できる植生指標を開発し(VIGS)、これを秋田県北部の黒鉱鉱床域を含むLandsat ETM+ 画像に適用した結果、季節が異なる複数のVIGS値の(比/標準偏差)が植生異常部抽出に有効であること、および植生異常クラスは既知鉱床の位置と概ね対応することを明らかにできました。

    さらに、観測波長帯が限られているマルチスペクトル衛星データを、多変量解析とベイズ理論を用いてハイパースペクトル画像に変換する手法も開発しました。これをアメリカ西部やチリの熱水変質帯に適用したところ、従来不可能であった複数の変質鉱物の識別を精度良く実行できることが確かめられました。

    これら以外に、合成開口レーダデータの偏波情報を利用して地表の粗度、誘電率、透磁率を算定するという手法なども開発しています。

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  • 陸域・海域での金属品位モデリングの深化
  • 金属資源の安定供給のためには、金属品位の高精度空間分布推定と鉱床を形成した物理法則の解明が不可欠となっています。 これらを目的として、主成分分析や物理法則を組み込んだ地球統計学的手法を開発中です。

    これを黒鉱鉱床やインドネシアの斑岩銅鉱床に適用したところ、高品位部の分布形態が詳細に明らかとなり、これから鉱液の主要なパスが概ね推定でき、鉱床の形成プロセスを解釈できるようになりました。

    また、沖縄トラフの海底熱水噴出地域を対象にし、海底堆積物と間隙水の化学成分、およびボーリングを利用した比抵抗検層データから、熱水の存在と流動に起因した金属濃度の3次元分布推定も行っています。

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  • 地球化学分析とシミュレーションによる地殻流体の把握とモデル化
  • 地殻中には、地下水、石油、天然ガスなど、様々な資源が流体として存在します。また、熱水から有用元素を含む鉱物が沈殿したり、母岩の構成鉱物が交代したりすることで形成した鉱床は熱水鉱床と呼ばれ、この形成にも流体の流動現象が関与します。 地熱発電は、地下から高温の蒸気や熱水を取り出すことで、地下の熱をエネルギーとして利用する技術です。
    このように、地殻における流体流動現象の理解は、種々の資源を利用する上で重要となります。

    本研究室では、同位体を含む流体の地球化学的特性の分析を行うとともに、地球統計学的手法を活用した水理地質構造のモデル化、 および地下水流動、物質移行のシミュレーションを行うことで、地殻流体の流動状態やそれに伴う物質移行現象を高精度に把握・予測する手法の構築を進めています。

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  • 蒸気スポット検出技術と貯留層計算ソフトの開発
  • SATREPS プロジェクトの一環として、リモートセンシング・地球化学・鉱物学での先端手法を統合し、地熱発電に最適な蒸気スポットを高精度で検出できる技術の開発をバンドン工科大学と共同で進めています。

    インドネシア西ジャワ州Wayang Windu 地区をモデルサイトとし、深部に位置する貯留層の状態を表層付近で把握するために、最大深度5mの表層ボーリングを複数掘削し、計測井を設置しました。これを用いて定期的なラドン・水銀濃度測定とガス組成分析を実施中ですが、成果の一部として透水性断層近傍に位置する測点で、深部からの地殻ガスの上昇と供給を示唆する特徴を見出しました。

    また、オブジェクト指向プログラミングの技法で拡張性に優れた貯留層シミュレータを開発し、深部地熱資源開発を想定して、これに超臨界状態の計算機能を組み込みました。熱力学的変数を適宜変更することで液相−臨界相−気相の相移行が安定となり、温度・圧力状態の時間変化を適切に予測できるようになりました。

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  • 地殻構造の高精度探査技術の開発
  • 地質情報解析や地球化学調査に加えて、非破壊での地殻構造調査(物理探査)に関する技術開発を行っています。活断層や地熱資源の探査、海底下の資源探査などにおいては高精度の地下探査技術が欠かせません。

    粘土・水を多く含む断層破砕帯や導電性鉱物を含む金属鉱床は、周囲の岩盤よりも電気を通しやすい傾向があり、石油・天然ガス・メタンハイドレートなどは逆に電気を通しにくいことが知られています。 このため、電気・磁気などを用いた地下可視化技術で地下資源や災害誘因を発見・監視できるようになります。

    本研究室では、地質構造や岩石物性と物理探査データを組み合わせて、より詳細に地下を可視化する技術の開発を進めています。さらに情報通信技術や統計学などを用いた新たなデータ解析・地下構造モデリング技術も開発中です。観測機器の開発、陸上や海底での資源探査、および採取した岩石の物性測定も実施しています。

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